生成AI最前線第7回 AIはどこの国のものなのか? 生成AIと地政学リスクの話

生成AIは、インターネットにつながれば、どこからでも同じように使える。

そう思っている方も多いのではないでしょうか。
しかし、最近の動きを見ると、その前提は少しずつ変わってきています。

前回取り上げたように、Anthropic社のClaude Fable 5とClaude Mythos 5は、米国政府の指示により、発表からわずか3日で利用できなくなりました。
対象は一部のモデルでしたが、「使えるはずのAIが、国の判断で突然使えなくなる」ことを示した出来事でした。

AIは国境を越えるサービスに見えていた

ChatGPTやClaudeのような生成AIは、Webサービスとして提供されています。
そのため、世界中の利用者が、同じように使えるものに見えます。

しかし実際には、そう単純ではありません。
そのAIをどの国の企業が作っているのか。
どの国の規制を受けるのか。
データはどこで処理されるのか。
計算に必要な半導体やデータセンターを、どの国が握っているのか。

こうした要素によって、使えるAIや使える機能が変わる可能性があります。

各国が「自前のAI」を重要視し始めている

米国は、高性能AIを国家安全保障に関わる技術として見始めています。
今回のClaude最新モデル停止も、その流れの中で起きた出来事と見ることができます。

一方、中国もAIを国家戦略の重要分野として位置づけています。
米国の半導体規制などを背景に、海外技術に依存しすぎず、自国でAIを開発し、使える体制を強めようとしています。

EUも、独自のAI基盤づくりを進めています。
EUはAI Actのようなルール整備だけでなく、AI Factoriesなどの取り組みによって、域内でAIを開発・活用するための基盤を整えようとしています。

つまり、各国はAIを単なる便利なサービスではなく、自分たちで持ち、管理すべき重要な技術として見始めているのです。

日本でも進む「自前のAI」づくり

この話は、日本にも関係があります。

日本でも、海外のAIを使うだけでなく、自前でAIを作り、管理し、活用するための取り組みが進んでいます。

たとえば、デジタル庁は政府職員向けの生成AI利用環境「源内」を展開しています。
経済産業省のGENIACでは、国内の生成AI開発力を高めるため、計算資源の提供や開発支援が進められています。

民間でも、NTTのtsuzumi 2のような国産のAIモデルが提供され、図表やグラフを含む日本語ビジネス文書を扱うアップデートも発表されています。
研究開発の面では、LLM-jp-4のようなオープンな国産モデルも公開されています。

もちろん、これらがすぐにChatGPTやClaudeを置き換えるわけではありません。
しかし、海外AIを使うだけでなく、国内でもAIを作り、選べる状態にしておくことは、これからますます重要になります。

まとめ

生成AIは、便利な道具であると同時に、国や地域の戦略にも関わる技術になりつつあります。

これからは、「どのAIが賢いか」だけでなく、「そのAIを安定して使い続けられるのか」も重要になります。

海外のAIを使うこと自体が悪いわけではありません。
ただ、ひとつの国、ひとつの企業、ひとつのサービスに依存しすぎると、政策や国際情勢の変化に影響を受ける可能性があります。

生成AIを使う時代には、AIの性能だけでなく、その背景にある国や制度、提供元にも目を向ける必要があるのです。